環境エンリッチメントって?(3)PK誌より

3、動物園での環境エンリッチメント

3.1 コスト・パフォーマンス 

環境エンリッチメントをおこなううえでたいせつなことは、
とりあえず実行してみること
②その効果判定をおこなうこと です。

また、エンリッチメントが人間が飼育している動物を対象とした、実践的なものである以上、それらにかかる③経済的側面を無視してはいけません。

何らかの環境エンリッチメント作業をおこない、その効果を評価するうえで野生で見られる行動と比較するからといって、飼育環境を生息地の環境と同じにすれば良いというわけではありません

動物の遊動域と同じくらいの面積を確保し、生息地と同じような温度や気象を保ち、生息地と同じ植物の生育を可能にするなどして、土地やエネルギーを使うことは、かえってその土地の自然環境を破壊することになりかねません。

また、人間により何らかの目的のために使われている動物だからこそ、人間にとっての利用という目的を外して動物中心に話を進めるべきではありません

ただ、野生で見られる行動が飼育下でもそのまま観察されたら、動物に「幸福な暮らし」が提供されていると考えられるという話なのです。

コスト・パフォーマンスとしては餌代、施設改造費などのほかにも人件費などが考慮されるべきです。

環境エンリッチメント作業をおこなうことは、必ずしもお金と労力がかかることではありません。少しのくふうと少しの経費で多大な効果が得られることがわかっています。

例えば、コンクリートの床におがくずやウッドチップを蒔くだけで十分な環境エンリッチメントになります。

マカク類ならその上に餌の小麦をまけば、喜んで長時間かけて餌を拾い食べるでしょう。
来園者はそのかわいい仕種を見ることができるだろうし、毎日掃除する必要もなくなるのです。

3.2 展示方法の2つの流れ 

環境エンリッチメントに関わり、特に動物園で論議されるのは展示方法です。

檻やコンクリートに囲まれた飼育施設に変わり、新しい展示方法として2つの流れが現れてきています。

これらをどういう名前で読んだら適当かわかりませんが、便宜上「動物福祉的展示」と「景観展示」として説明したいと思います。

「動物福祉的展示」とは、飼育される動物の心身の福祉を考え、野生本来の行動が引き出せるような飼育環境を提供する展示です。

「景観展示」とは、その動物がいる生息地の様子(風景、気候など)を再現し、来園者を楽しませることを目的とした展示です。

この二つの方法はかなりオーバーラップし、日本では景観展示を「生態的展示」と呼ぶので、混同してしまうこともあるようです。

しかし、その環境が動物にとってのものか来園者にとってのものかを考えれば、両者の違いが大きいことが分かります。

例えば飼育場に樹木を植えるということは、来園者から見た景観も良くなるし、動物もそれらを利用できるのでどちらの展示方法にも含まれるでしょう。

しかし、樹木をただそのままにしておけば動物が利用してぼろぼろになります。

その時、景観展示を目的とするなら電気柵で保護し来園者から見える美しい景観を保存するでしょう。
動物福祉的展示なら、多少景観が悪くなっても動物がそれを自由に利用できるようにしておくでしょう。

出来る限りの両立が必要ですが、私は動物園が教育の場、自然保護の場、研究の場としての機能を持つのなら、最終的に動物福祉的展示をすすめるべきだと思います。

しかし動物園は、来園者が楽しめることに重点が置かれているためか、ほとんどの展示が景観展示の方法を取っているようです。

たとえば、上野動物園の”ゴリラの森”は景観展示の代表だと思います。

来園者からみて、野生下のゴリラの生息環境の一部を再現しようとしています。擬岩や擬木、電気柵を多く使用しており、動物福祉より景観を重視した展示方法である事が分かるでしょう。

一方、その展示の近くには大きなパネルがあるのですが、それはハウレッツ動物園(イギリス)のゴリラ舎で、動物福祉的展示の代表と言っていい動物園です。

ハウレッツ動物園のゴリラ舎は、決して広くありません。金属製の檻の中にステンレスの滑り台などの人工的な遊具を沢山配置し、床には高さ数十cmになるほどの藁が敷きつめられています。

生息環境とは似ても似つかぬ環境ですが、ゴリラの繁殖率は高く、行動も野生のものに近い動物福祉に配慮した飼育環境といえます。
現在の日本の動物園は、来園者と飼育の現場の考えが先行している感じがします。

飼われる側の動物の立場に立った動物福祉の遅れを、来園者が感じ取っているから、動物の姿が見たい小さい子供には好評ながら、ある程度の年齢では「動物がかわいそう」と言った言葉が多く聞かれるのかもしれません。
動物園は立派な教育機関になりえるところです。

動物福祉に考慮した展示をおこない、どうしてそのような展示が必要なのかを教育し、来園者がその個体自身、種としての動物、その動物をとりまく自然について考える場を提供するべきだと思います。

動物園における三者関係(動物園関係者・来園者・飼育動物のそれぞれのあいだの関係)が良好に保たれ、バランス良く発展することを期待します。

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